2012年度大学院・学部講義
政治思想史


(一橋大学)



【授業概要】

 この講義では、近代ヨーロッパの政治思想史と現代の政治理論を体系的に学習し、現代世界の法・政治制度を支える基本原理について理解を深めることを目指します。さらに、今日それらがどのような限界に直面し、どのような問い直しを迫られているかを検討することで、一人一人が自分の思想を鍛えるための材料を提供したいと思います。

 第1部では「自由民主主義の形成と変容」として、近代ヨーロッパ政治思想の流れを(1)19世紀初頭までの基本原理の確立期、(2)19世紀から20世紀の変容期の順にふり返ります。第2部では「現代政治理論の展開」として、(1)リベラリズムの再定義とその批判、(2)現代権力論、(3)現代デモクラシー論の展開の三点を検討します。


授業の目的・到達目標と方法

 到達目標は次の2点です。

 (1)近代の自由民主主義の基本原理を理解したうえで、それらが今日どのような課題に直面しているのかを説明できるようになること。
 (2)今日の政治や社会にみられる具体的な課題を、国家と市場、平等と公正、普遍性と多元性、自由と権力などの抽象的な概念を使いながら分析でき、かつ自分の立場を説明できるようになること。

 一方通行の講義とならないよう、学生同士でディスカッションする時間を組み込みます。また講義時間内に2度の小レポートを実施し、次の時間でフィードバックと進度の調整を行います。


授業の内容・計画

 毎回リーディング・アサインメント(15〜20頁程度)と質問事項を用意し、予習を前提として講義を行います。講義はレジュメとパワーポイントを用いて進めます。

第1部 自由民主主義の形成と変容

  1. 国家
      主権という概念を理解する。
      トマス・アクィナス、マキアヴェリ、ホッブズ

  2. 市場
      自由主義における国家と市場の役割を理解する。
      ロック、スミス

  3. 公共性
      近代デモクラシーの基本原理について理解する。
      ルソー、カント

  4. 自由主義への批判
      近代自由主義の限界について理解する。
      ヘーゲル、マルクス

  5. 民主主義への懐疑
      近代デモクラシーの限界について理解する。
      トクヴィル、シュンペーター
      第1回小レポート
 
  6. 小レポート講評(1)

第2部 現代政治理論の展開
 
  7. 共和主義の復権
      現代デモクラシーの原理と批判について理解する。 
      ダール、アレント

  8. リベラリズムの再構成(1)
      新自由主義について理解する。
      バーリン、ハイエク、フリードマン

  9. リベラリズムの再構成(2)
      リベラリズム、現代平等論の展開について理解する。
      ロールズ、セン

  10. コミュニタリアニズムの挑戦
      コミュニタリアニズムのロールズ批判について理解する。
      サンデル、テイラー、マッキンタイア

  11. 差異と多元性
      政治理論における普遍主義と多元主義の対立について理解する。
      マルチカルチュラリズム、フェミニズム
      第2回小レポート

  12. 現代権力論
      小レポート講評(2)
      権力とは何かについて理解する。
      ルークス、フーコーとポストモダニズム

  13. 現代デモクラシー論
      現代デモクラシー論の展開について理解する。
      ハバーマス
      まとめ


テキスト・参考文献

教科書はありません。リーディング・アサインメントは政治理論の古典を中心に、以下のテクストから10-20頁を抜粋します。

ホッブズ『リバイアサン』
ロック『統治二論』
スミス『国富論』
ルソー『社会契約論』
カント『永遠平和のために』
ヘーゲル『法哲学要綱』
マルクス『ドイツ・イデオロギー』
トクヴィル『アメリカにおけるデモクラシー』
シュンペーター『資本主義・社会主義・民主主義』
アレント『全体主義の起源』
バーリン『二つの自由論』
フリードマン『資本主義と自由』
ロールズ『正義論』
サンデル『自由主義と正義の限界』
マッキンタイア『美徳なき時代』
ルークス『現代権力論批判』
フーコー『監獄の誕生』
ハバーマス『事実性と妥当性』

参考文献として以下を挙げておきます。

福田歓一『政治学史』東京大学出版会、1985年
川崎修・杉田敦編『現代政治理論』有斐閣アルマ、2006年


他の授業科目との関連

「政治過程論」、「比較政治」と並ぶ発展科目の一つであり、基礎科目「政治学」、「政治史」とともに履修することで、政治学を体系的にカバーすることができます。また「社会思想史」、「社会哲学」とも関連があります。


成績評価の方法

 通常点(30点)+小レポート(30点)+学期末試験(40点)の合計。

 通常点は、講義のなかでグループ・ディスカッションを行い、質問への解答を終わりに提出すれば10点(×3回、不定期)。小レポートは、5〜6回の講義ごとにまとめの質問を用意するので、講義中にレポートを書いて提出する(15点×2回)。これらはアサインメントと講義の内容を踏まえていること。

 学期末試験は論述問題2題とする予定(20点×2)。持ち込みは、前もって配布したB4のメモ用紙(記入自由)のみ可。


成績評価基準の内容

 上記の合計点で60点以上が合格水準。
 可以上の成績は、A〜Cが均等に分布するよう相対評価とし、そのうちAは1/3以下とする。